繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「素材がいいから、あんまり手を加えなくても綺麗なんだよね」

 フォローなのかわからないが、温美がそう言う。

 奈江だって、綺麗にしている女の子を見ると、自分はなんて雑なんだろうと気にはなる。けれど、素の顔でじゅうぶんだと思うことの方が多くて、環生の言う通り、流行のメイクには興味がなかった。

「俺はもう少し色を乗せたらいいと思うけどね。健康的になるよ」

 なんだそれは。と、奈江はほおに手を当てる。不健康に見えてるんだろうか。

「奈江さんぐらい美人だったら、ちょっとチークするだけでも華やかさが出ると思うなぁ。私ね、メイクも得意だから、興味があったらなんでも聞いて」

 温美は胸を張る。雑誌から抜け出したモデルのような美しさを持つ彼女の言葉には説得力がある。

「だから、興味ないんだよ、早坂さんは。強制的にやらないと、一生やらないよ、このタイプの人は」

 やけに環生は辛辣に言うが、温美はおかしそうに笑っている。彼はいつもこの調子なんだろう。まあ、真実なだけに、奈江も反論できない。

「環生くんがこんなになついてるなんて珍しいね。奈江さんとはいつからの知り合いなの?」

 なついてる? 全然そうは思えない。

 奈江は驚いて、環生を見る。彼はなぜか仏頂面だ。

「この間、知り合ったばっかりだよ。秋也さんがよくこの人の話するから、なんか親しい気がしてるけどさ」
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