繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 温美は惚れ惚れとした目をして、ワックスを伸ばした指で奈江の髪がカールするように優しく梳く。

「うん、完璧。環生くんが完成させてあげてよって言うから、何かと思ってたけど、奈江さんって本当に潜在能力高いですね」

 完成?

 そういえば、環生に完成されてない作品を見るのは落ち着かないって言われたんだった。あれは、全然おしゃれじゃないですねって意味だったのだろう。

「猪川さんと並んでも恥ずかしくない気がしてきました」

 そう言うと、温美は大きな目をぱちくりさせる。

「もとから恥ずかしくないですよー。秋也くんに聞いてみてください。いつもと今日の私、どっちが好き? って」

 そんなことを聞く勇気はないと思いながら、奈江は財布を取り出す。すかさず、「環生くんからのプレゼントですから」と言われ、奈江はお礼を言うと店を出た。外はすでに日が沈み、商店街の明かりがまばゆく感じられる。

「じゃあ、楽しんできてくださいねー」

 手を振る温美に見送られ、奈江は吉沢らんぷへ向かう。

 みやはら縁結び祭りは週末の三日間開催され、連日賑わっているそうだが、最終日の夜はいっそう人出が増えるらしい。

 大野駅から絶える気配もなく流れてくる人々にまぎれて、商店街を抜けた先にあるらんぷやへとたどり着くころには、ちょうど約束の時間になっていた。
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