繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「猪川さんは、どっちの私が……いいですか?」

 聞く気もなかったのに、どういうわけか、尋ねていた。

「俺? 俺はどっちもいいと思うよ。早坂さんがいいと思う方がいい」

 そうか。そんなふうに言ってくれるのか。でも、そうやって言ってくれる人だっていうのは知っていた。

「私は、いつもの私が好きなんです」
「そう」
「周りがどう思うかじゃなくて、自分がどう思うかが大事だと思ってて……」

 いつもひと目を気にしてばかりいるのに、何を言ってるんだって笑われてしまうかもしれない。そう思いながら彼を見上げると、優しい目で見守ってくれている。

「大切なことだよね」
「でも……、今日の私も嫌いじゃないって思ってるんです」

 うつむこうとすると、秋也が下からのぞき込んでくる。

「わかるよ。すごくきれいだから」

 ささやくように言うから、ますますどきりとする。ほおが熱くなって、手を添えると、秋也が目を細める。

「早坂さんは? 前の俺と今の俺、どっちが好み?」
「髪を染める前と今?」
「早坂さんはちゃらちゃらした男が苦手かなって思ってさ。俺、茶髪にすると、やんちゃそうに見えるらしいからさ」
「髪の色とか、関係ないです」

 そう言いつつ、罪悪感はある。第一印象はあまり良くなかった気がする。どちらかというと、苦手なタイプに見えていた。

「じゃあ、また染めるかな」
「どんな色にしても、猪川さんの優しさは変わらないですから」
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