繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
彼岸橋の手前から立ち並ぶ屋台の列を抜けて、宮原神社の境内に入ると、人の波はずいぶんと落ち着いていた。
想像していたよりも広い境内に、立派なお社。右手の方に何やら列ができていて、人々の足がそちらへ集まっていく。
「何があるんですか?」
「縁結びの札がいただけるんだ。それを、ほら、境内の真ん中に白い布が張ってあるだろ? その中へ、誰々さんとご縁がありますようにって祈りながら投げ込むんだよ」
秋也の言うように、白い布の前には、両手に添えた札を次々に投げ込む人々の姿がある。
「それが、縁結び祭り?」
「そう。早坂さんもやってみる?」
「あ……、そうですね」
奈江はちゅうちょする。どうにも、行動に起こさないといけない行事は苦手なのだ。
「あんまり得意じゃないんだっけ?」
秋也は冷やかし半分に笑う。奈江の行動力のなさを楽しんでいるのが伝わってくる。
「縁結び祭りって、縁を預けて、縁をいただくお祭りなんですよね?」
奈江はそれを思い出して、尋ねる。
「よく知ってるね」
「伯母が言ってました。離したい縁は一旦預けて、またご縁が必要になったら返してもらうといいって。それも、あの札でお祈りするんですか?」
「そうらしいね。手放したい縁は、あの札を裏返して投げ込むんだよ。興味ある?」
そう言われて浮かぶのは、やはり、母の顔だ。しかし、手放す勇気はない。縁が切れてしまうのは少し怖い。母とはつかず離れず、そんな関係がいいのかもしれないと思う。
「どうしても必要になったら、やってみます」