繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 カーテンのかかる出窓に近づくと、手書きの張り紙があるのに気づく。

『修理のみ承ります 吉沢らんぷ』

 来客を歓迎していないような、愛嬌のない手書きの文字だ。素っ気ない店主なのだろうか。

 どうしよう。一度、帰ろうか。奈江はすぐに尻込みしてしまう性格だが、伯母の頼みを途中で放り出すわけにはいかないと思う正義心も持ち合わせていて、勇気を出すと、木製扉を押した。

「こんにちはー」

 蚊の鳴くような声をかけながら、店内へ足を踏み込んだ奈江は、ちょっと拍子抜けした。店内に人の姿はなかった。

 吉沢らんぷに入るのは初めてで、辺りをゆっくりと見回す。壁際にはいくつものランプが置かれた棚、中央にはランプの修理をするためと思われる作業台が二つある。片方の作業台の上には、今まさに作業中と言わないばかりの、解体されたランプが置かれていて、少しばかり安心する。ちゃんと営業しているようだ。

 すぐに誰か戻ってくるだろう。そう思って、作業台の前に立っていると、店の奥にかかる生成りのカーテンが揺れ、茶色い髪の青年がひょいと姿を見せた。
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