繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「好き……っていうか、(くせ)みたいなものかもしれないです」
「癖?」

 意外な返事だったのか、秋也は目を丸くする。

「母が教育熱心だったので、小さな頃からとにかく検定を受けるようにって育ったんです。検定が目的っていうより、目標があれば、どう頑張ればいいかわかるでしょっていうような、入門的な感じではあったと思うんですけど」
「じゃあ、何かを勉強しようとなったら、まずはやってみるって感じが身についてるんだ? 頑張り屋なんだね、早坂さんは」
「そんなことは、全然。……勉強は全然得意じゃなくて、人より時間がかかっちゃうんです」

 そうやって育ったのは、奈江だけではない。もちろん、兄も同じだ。兄は検定も資格もスムーズに合格するタイプだったが、奈江は違った。同じ兄妹なのにこうも違うのかと揶揄されるぐらいには、その差は歴然だった。

 奈江は実績をゆっくりとしたスピードで積み上げるしかできなくて、母が思うような結果を出せたことはなかったし、頑張り屋だねなんて褒められたこともなかった。

「人と比べる必要はないと思うけどさ、俺、頑張ってる人は好きだよ」

 秋也は羨ましいぐらい素直で、ストレートに言葉を伝えてくれる。

 どうしたら、こんなにまっすぐな感情を持つ人になれるのだろう。羨望と憧れの目で、奈江は彼を見つめる。

 初対面のときは目を合わせるのも苦手だったけど、今は何も怖くない。彼が自分を傷つけないことはわかっているし、愛情のある優しい眼差しには心が温まる。
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