繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 奈江の持つ紙袋に気づいた彼は、やけにフレンドリーに話しかけてくる。かしこまった接客は期待できないような雰囲気なのに、失礼な感じもしない人なつこさが憎めなくて、奈江もすぐに受け入れる。

「伯母のランプが壊れちゃったみたいなんです。見てもらえますか?」
「すぐに見させてもらうよ」
「作業中じゃなかったですか?」

 作業台の上の解体されたランプに、ちらりと視線を向ける。

「時間かかるから、お客さんのランプ、先に見るよ」

 青年はすぐに手に持っていたコードを置くと、何も乗っていない作業台の前へ移動してきて、奈江から紙袋を受け取る。

「もう20年以上前にこちらで買ったみたいなんです」

 梱包材を丁寧に外してランプを取り出すなり、青年は感嘆の息を漏らす。

「ああ、これはいいランプだね。ミューラー兄弟の作品だよ」
「ミューラーって、あの有名な?」

 ランプには全然詳しくないが、名前ぐらいは聞いたことがある。

「そう、フランスのね。このガラスシェードに使われてるヴィトリフィカシオンっていう技法は、アールデコ期を代表するものでね。それにほら、ここにミューラーのサインが入ってるだろう?」

 ヴィト……? 何かよくわからないまま、奈江は彼の指差すシェードをのぞき込む。確かに、サインと思われる文字が刻まれている。

「これは、1920年代のものかな」
「20年っ? 100年以上前のものなんですか?」

 ひどく驚くと、青年は愉快そうに肩を揺らす。
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