繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「じゃあ、うまくいかないときの方が多いです……」
「この人しかいない、と思って結婚した人とすらうまくいかないなんて、ざらにある話だろう? たいして親しくないやつとうまくいかなくたって気にしなくていいんじゃないか?」

 それはなぐさめだろうけれど、秋也は答えを言っていることに気づかないんだろうか。

「猪川さんだって、私とお付き合いして結婚を考えるようになったら、私じゃダメだって思うかもしれない」

 泣きたい気分になる。自分たちにだって、四季はあるのだ。

 うつむくと、ひざの上に乗る手に彼の手が伸びてくる。そっと握りしめられると、奈江も握り返したくなる。でも、そうしていいのかわからないまま、ただ手を重ね合わせる。

「それでもいいんだよ。俺たちだって、うまくいかないことがあってもいいんだよ」
「それで別れても、仕方ないで終わりですか? だったら、最初からお付き合いしたくないです。猪川さんを傷つけたくない」
「俺を傷つけるかもしれないから、付き合うのは無理? 傷つく可能性なんてほんのわずかなのに?」
「わずかでも、可能性はあります」
「早坂さんが俺のために泣いてくれた優しい人だってことは知ってるよ。そんな早坂さんが俺を傷つける可能性なんて、ないに等しいよ」
「でも……、不安なんです」

 まばたきをしたら、ほおに涙がつたう。
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