繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 ふしぎそうにこちらを見やる女の人に見覚えはない。しかし、背のあまり高くない、ふんわりと優しい雰囲気の女の人の横に、穏やかな遥希の笑顔を想像するのは容易なほど、かわいらしい人だった。

 どう声をかけたらいいかわからず、立ち尽くす奈江の足もとに、シェードがやってくる。靴の匂いをかぎ、奈江のももに前足を乗せ、後ろ足で立つとしっぽを振る。シェードは覚えてくれているんだろうか。

「ごめんなさいね。シェード、困ってるよ」

 女の人は頭をさげると、奈江からシェードを引き離し、行こうとする。

「あのっ、友梨さんですか?」

 奈江はあわてて引き止める。

「そうですけど……。どこかでお会いしたことありましたっけ?」

 けげんそうにこちらを見上げる友梨に、奈江はすぐさま頭を下げる。

「知ってるのは、シェードなんです。高校生のころに、ここでよくシェードとお散歩して」

 遥希の名前を出していいかわからず、そう言うと、友梨は「ああ」と何か思い出したようにうなずいた。

「遥希のお友だち? えっと、確か……、そう、マメちゃん。マメちゃんとシェードが仲良しだって、遥希から聞いてました」
「そう、そうです。マメです。やっぱり、あのときのシェードなんですね?」
「シェードは私が遥希から預かって育ててるんです。……あの、遥希のことは?」

 遠慮がちに尋ねてくる友梨に、奈江はそっとうなずく。

「聞いてます、猪川さんから」
「猪川って、秋也くん?」
「らんぷやの猪川さんです」

 そう言うと、友梨は親しみのある笑顔を見せる。

「懐かしい。最近は全然会えてないんだけど、お元気?」
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