繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 奈江は大野川沿いを走り、吉沢らんぷへ向かう。途中、彼岸橋の中ほどで足を止めると、後方を振り返る。

 区画整理で整った交差点の角地は、塀はあるのに家はない。なぜ、空き地になっているのか考えもしなかった。

 彼岸橋でなくなった交通安全の御守りを一緒に探しているとき、秋也は何を思っていただろう。

 猪川家のせいで女の子が亡くなった。そんなふうに思い詰め、御守り探しに付き合ってくれたのかもしれない。

 自分は悪魔だと苦しむぐらいだ。奈江の知らないことで、いまだ、彼は傷つき、悩んでいる可能性は否定できない。

 奈江は非力だ。だけれど、秋也のそばにいると決めたのだから、その悩みを少しだけでも一緒に背負わせてもらえないだろうか。

「いない……」

 吉沢らんぷの入り口には、『ただいま、外出中』の立て看板が置かれている。

 仕事で出かけているのだろう。帰ってくるまで待っていようと、奈江が店先から道路の方へ振り返ったとき、商店街を抜けてくる白のワゴン車が目に止まった。

 あれは、秋也の作業車だ。あわてて角を曲がると、店の裏手に入っていくワゴン車が見える。やっぱりそうだ。秋也が帰ってきたのだ。

 追いかけるようにして裏口の駐車場へ踏み込む奈江は、運転席から降りてきた秋也を見つけるなり駆け寄る。

「奈江、こっちに来てたんだな」

 秋也はいつもと変わらない笑顔で、そう言う。
< 165 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop