繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 賢太が帰るとすぐに、秋也が作業着の上着を脱ぐ。

「探しに行くか」
「え?」
「気になるんだろう? 与野さんの御守りの中に指輪があるんじゃないかって」
「それは……」

 当然だ。気になるに決まってる。賢太が見たという少女の特徴が、舞花ちゃんによく似ていたのだから。

「今の話を信じるなら、早坂さんの見た御守りが賢太のものである可能性は高いよな」
「でも、どうして与野さんが持ってるかは、彼の話だけではわからなかったです」
「それをこれから聞きに行くんだよ」

 秋也は力強く言うと、作業台の横に置かれた看板を手に取る。そこには、

『ただいま、外出中。お急ぎの方はお電話ください』

 と書かれている。店を留守にする時はいつもその看板を出しているようだ。

「あっ、待ってくださいっ」

 店を出ていく秋也の背中を、あわてて追いかける。そして、看板を扉の前に立てかけた彼とともに、彼岸橋につながる道を並んで歩く。

「与野さんになんて言うんですか?」

 突然訪ねていって、御守りを見せて欲しいなんて言える気がしない。もともと、御守りだって、勝手に盗み見したようなものだ。いくら、康代の姪だと言っても、探るような真似をしたら警戒されるだろう。

「正直に話せばいいんじゃないか?」

 あっけらかんと答えるから、難しく考える自分が馬鹿らしくなってしまう。

 けれど、そうだった。秋也は奈江にないものを持っている。いや、奈江にあるものなんてわずかで、秋也が多くを持っていると思うからこそ、彼が大丈夫だといえば大丈夫だと思える。そんな強さに惹かれるのだと思う。
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