繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「うまく話せるかわからないけど、聞いてみます」

 勇気を出してそう言うと、秋也はふしぎそうにこちらへ顔を向ける。

「俺が聞くよ」
「いいんですか?」

 秋也はみね子と会ってもいないのに。

「まあ、なんとかなるだろ」

 やはり楽観的な彼が軽やかな足取りで彼岸橋を渡るから、奈江は頼もしく思いながらついていく。

 与野さんちへ到着すると、先日とは違って、駐車場には赤い乗用車が停まっていた。娘の美乃の車だろうか、と眺める横で、秋也がためらいなくチャイムを鳴らす。

「はーい」

 すぐに応答がある。みね子ではない女の人の声だ。

「吉沢らんぷの猪川です」
「猪川……さん? 商店街のらんぷやさんの?」

 インターフォンから聞こえてくる声は戸惑っているように感じられる。

「はい、そうです。お尋ねしたいことがありまして」
「……ちょっと待ってくださいね」

 インターフォンが切れたあと、程なくして玄関ドアが開き、茶色の髪の女の人が顔を出す。

 歳の頃は40代だろうか。いや、みね子の娘だとしたら、50代だろう。そうは見えないぐらい、落ち着きと華やかさを兼ね備えた美しい人が、門の前までやってくる。

「猪川と申します。与野みね子さんはご在宅ですか?」

 秋也が頭を下げると、女の人もつられるように小さく会釈する。

「母は今、出かけているんです」

 やはり、彼女が美乃のようだ。

「そうですか。いつごろ戻られますか?」
「失礼ですが、そちらの方は?」

 美乃の目がこちらに向くから、あわてて奈江も頭を下げる。

「前橋康代の姪で、奈江と言います」
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