繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 秋也は賢太から聞いた話をかいつまんで話す。美乃は信じられないとばかりに目を見開いたが、話を聞き終わると、静かにうなずいた。

「たしかに、御守りはあります。中までは見たことはありませんが、母は舞花ちゃんが持って帰って来たんだって言っていて」
「舞花ちゃんが与野さんに渡したんですか?」

 驚いて息を飲む奈江を、美乃は頼りなげに見つめる。

「信じられない話ですよね? 母は御守りを渡してあげてたら、事故に遭わなかったかもしれないってずっと後悔してたんです。もちろん、舞花ちゃんはお母さんからもらった御守りを持っていたんですよ。母はそれだけじゃ効果がなかったんだって、兄夫婦を叱ったこともありました。それが原因で、兄夫婦は家を出てしまったんです。だから、母は舞花ちゃんが自分を励ますために届けてくれたんだって言い出して……。舞花ちゃんを失ったショックで幻覚でも見てるんじゃないかって、私は心配で……こんなこと、誰にも話せなかったんですけど」

 美乃はつらそうに眉を寄せる。

 どうしてこんな話をしてくれるのだろう。奈江は秋也を見上げる。彼だからだろうか。包容力のありそうな彼に甘えて、つらさを分け合える気がしたのか。

「わかります。知り合いも同じです。信じてもらえないと思っていたから、この10年、誰にも言わずにいたようです」

 秋也は彼女の思いを受け止めて、そう言う。

「どうしてその方は今になって?」
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