繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 仏壇のあるみね子の部屋の前に到着すると、少しして美乃がカーテンを引く。

「お待たせしました」

 と、彼女がガラスドアを開き、先日、みね子がそうしていたように仏壇の前でひざを折る。

「御守りはこれです。月命日には必ず、母はこれを持って彼岸橋へ行くんです。もう大丈夫だよって、あの交差点は工事して事故が起きなくなったからって」

 経机に置かれた御守りを引き寄せると、美乃はひもをほどいて口を開く。そうして手のひらの上へひっくり返すと、ころりと銀色の輪が転がり落ちる。

「まさか、本当に……」

 半信半疑だったのだろう。美乃は戸惑い、指輪を持ち上げる。

「こんなふしぎなことってあるのかしら」
「見せてもらっても?」

 美乃は秋也の手のひらの上へそっと指輪を置く。彼はそれを手に取り、指輪の内側を確認する。イニシャルと日付を確認したのだろうか。そっとうなずいて、ポケットから取り出したハンカチに優しく包む。

「指輪は必ず、持ち主に返します」
「舞花ちゃんはいたずら好きのかわいい子で、決して悪気があって、この御守りを持って来てしまったわけじゃないと思うんです」
「はい。わかっています」
「その方に、ごめんなさい、とお伝えください」
「いえ、彼は感謝すると思います。ご無理を言いまして、申し訳ございません」
「猪川さんも大変でしょうけれど、わざわざありがとうございます」

 美乃は丁寧に頭をさげると、御守りをそっと握りしめた。
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