繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



「まさか、本当に見つかるなんて驚きましたね」

 彼岸橋に差し掛かる頃、奈江はポケットに手を突っ込んで歩く秋也に声をかけた。彼の手の中には、しっかりと指輪が握られているように思う。

「そうだな。確信があるようで、不確かなものに触れた妙な気分だよ」
「本当ですね。ふしぎなことってあるんだなぁって」
「こんな経験ができたのも、早坂さんに出会えたからかな」

 秋也は苦笑するみたいに笑うと、奈江の顔をのぞき込む。まるで、出会えた……だなんて意味ありげに聞こえる言葉をかけられた奈江の表情を見逃さないとばかりに。ただ彼は目線を合わせて話してくれる優しい人なだけかもしれないけれど。

「俺は出会えてよかったって思ってるんだけどね」

 そんなふうに言われると、どきりとして、目が泳いでしまう。

 悪いくせだ。男の人が好意を示してくれるたびに、それを恋愛感情と結びつけてしまうのは。いや、違うだろうか。後輩の男の子はいつだって無邪気に話しかけてくれる。その態度から恋愛感情を感じたことはない。相手が秋也だから、今こんなふうに感じてるのか……。

「よかったって、私は別に……」

 奈江は冷静にならなきゃと思いながら、そうつぶやく。

 自分は何もしていない。いつもなりゆき任せで、自分の足でしっかりと立ち、歩いたことなどあるだろうか。
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