繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「美乃さん、初対面なのにいろいろ話してくれましたよね。それは私とは関係なくて、猪川さんに話したくなるような魅力があるからだと思います」

 康代の姪がいたから話してくれたわけじゃない。それはなんとなく感じていた。秋也の態度が、彼のまとう優しい雰囲気が、初対面の相手の心を開かせたのだと思う。

「魅力ねぇ」

 彼は意味深につぶやく。目が合うと、なんだか気まずい。

「俺って、早坂さんから見て、どんな男……」
「あっ、指輪、どうしますか?」

 勝手に焦って、彼の言葉を遮ってしまう。変に意識したみたいだ。彼に惹かれているから、お互いに意識してるなんて、きっとそんなふうに感じて。それは盛大な勘違いだとわかっているのに。

 秋也はわずかにあきれたような顔をしたが、立ち止まり、ポケットからハンカチを取り出す。そして、折りたたまれたグレーのハンカチをそっと開く。中央に、プラチナの輝きを失わない指輪が現れる。

「間違いなく、越智さんのものなんですよね?」

 こうして目にしても、いまいち実感がわかない。というより、ふしぎな感覚という方がやはり、正しいかもしれない。

「結婚記念日は、賢太の誕生日の11月8日なんだってさ。ご両親のイニシャルはふたりとも、M。間違いないはずだよ」

 指輪の内側を奈江も確認する。秋也の話と符合する文字と日付が刻まれている。
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