繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「そう、よかった。じゃあ、行こうか。近くのレストラン、予約してあるから」
「わざわざ、予約を? ありがとうございます」

 改札に背を向けて歩き出す彼とともに来た道を戻る。

「さっきの彼、よかったの?」

 コンコースを出たところで、秋也はそう尋ねてくる。

「後輩なんです。帰る方向が一緒なので、たまに会うんです」
「ああ、そうなんだ。早坂さんを慕ってるみたいだったね」
「慕われてるのかな……。そんな感じじゃないと思いますけど。誰にでも人なつこく話しかける子なので」
「じゃあ、俺の勘違いかな。てっきり、早坂さんに好意があるのかと思ったよ」
「えっ……、ないですよ。わかるんです。そういうの」

 基本的に、社内で奈江を好きな人なんていないだろう。嫌われてはいないけど、好かれてるわけでもないと思っている。

「へぇ、わかるんだ?」

 意味ありげににやつくから、秋也はきっと誤解してる。

「本当ですよ。きっと彼、恋人がいるし」

 そんな気がするだけだけれど。

「まあ、彼氏じゃないならいいんだよ。変に誤解させたら申し訳ないからね」
「お付き合いしてる人はいないですから」
「そうなの? いないんだ。俺もいないから、一緒だね」

 一緒なのがうれしいのだろうか。秋也は上機嫌な笑みを浮かべて、奈江の顔をのぞき込むのだった。
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