繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 あまりに背伸びした高級レストランへ連れていかれたらどうしよう。内心、心配していた奈江だが、秋也の選んだ店は、同世代の若者が集う落ち着いたレストランだった。

 だけれど、完全個室のステーキ店で、高級感がある。それはそれで緊張してしまうけれど、変に格式ばってないから安心できる。知り合ったばかりの自分たちに見合う店を探してくれた彼が、最大限の気づかいを見せてくれたんじゃないかと思えた。

「勝手に予約して悪かったけど、ステーキは大丈夫だった?」

 席に着くと、秋也が尋ねてくる。

「はい。好き嫌いはあんまりないので。それに、個室だと落ち着けるから好きです」

 人目を気にしなくていいのは、奈江にとってかなり重要だった。今日は金曜日の夜だ。同僚の目は向井以外にもある。会社が近いから、余計に気になっていたが、ここなら安心して過ごせそうだ。

「早坂さんなら気に入ってくれるんじゃないかなって思ってたよ。メニューはまだ決めてないから、好きなもの頼んでいいよ」

 差し出されたメニュー表を受け取りながら、奈江は尋ねる。

「猪川さんはこのお店によく来るんですか?」
「マンションが近いから、たまにね」
「近くにお住まいなんですね」
「駅前の通りを一本入ったところのマンションだよ」
「すごいんですね」

 横前は都心部の大きな駅だ。駅前のマンションは、とてもじゃないが奈江には借りられない。社長を辞したとはいえ、秋也は代表取締役だし、仕事はうまく行ってるのだろう。
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