繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「すごいっていうか、同居人がいるしね」

 注文を済ませると、彼は苦笑いして、そう答える。

「どなたかと一緒に暮らしてるんですか?」

 家賃は折半なのだろうか。そうであっても、奈江にとっては雲の上の話だけれど。

「今度、紹介するよ。彼も早坂さんに会いたがってるから」
「えっ、私に? どんな方なんですか?」
「まあ、悪いやつじゃないから大丈夫だよ」

 思わせぶりに言うのだ。会ってからのお楽しみ、だろうか。奈江はそういうのが、少し苦手だ。気になって落ち着かなくなるから、あまり考えないようにしようと思って、話題を変える。

「猪川さんって、アプリ開発されてるって言ってましたよね?」
「覚えてくれてた?」
「会社のロゴマーク、どこかで見たことがあるなって思ってたんです」
「そう言えば、そんなこと言ってたね。どこで見たか思い出したの?」

 愉快そうに目を細めながら、尋ねてくる。彼にとって、奈江の一挙手一投足がおもしろく、興味の対象なのだろう。

「そうなんです。使ってます、私。EARS.ってアプリ」
「本当に?」

 意外だったようで、秋也は二度まばたきをする。

「悩みごととかあると、聞いてもらうんです。正解を教えてくれるわけじゃないんですけど、すごく励ましてもらえるっていうか……」
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