繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 ステーキをひと口ほおばる。肉のうまみが口の中に広がる。柔らかくておいしい。普段は味気ない食事ばかりしているから、伯母以外の誰かとの食事を楽しめるのは久しぶりで、自分でも気持ちが高揚してるのを感じる。

 ああ、そうだ。伯母の家で秋也と夕ごはんをごちそうになったこともあった。あのときも、こんなふうな気持ちだった。彼とは心地よく過ごせるのだと改めて実感する。

「猪川さんもあのアプリ、使ったりするんですか?」
「そうだなぁ。今は必要を感じないからな。開発当初は若かったし、そういうのがあると便利だなとは思ってたよ」
「若いって、いつぐらいに開発を?」
「二十歳ぐらいかな」
「はたち……っ」

 目を丸くすると、秋也はおかしそうに声を漏らして笑う。

「俺一人で開発したわけじゃないからさ。大学の教授や同期の仲間、あとはまあ、社長がいたから完成までたどり着けたっていうかさ」

 ということは、大学在学中に開発したアプリなのだろう。

「社長さんって、すごい方なんですね」
「そうだな。天才っているんだって思ったよ。早坂さんも、会うときっと驚くよ」
「お会いする機会はないと思いますけど」
「紹介するって言っただろ? 楽しみにしててよ」

 紹介してくれるのは、同居人じゃなかったか。

「じゃあ、もしかして……」
< 79 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop