繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「でもそんな、悪いです。そのためにアプリがあるんだし」
「たまには生身の人間と話すのも悪くないよ。俺は早坂さんともっとたくさん話したいしね。また誘ってもいいかな?」

 唐突に言われて、奈江はひるむ。

「え……、あ、大丈夫です」

 気づいたら、そう言っていた。秋也といると、人生が前に進んでいく。彼がきっと背中を押してくれているから。

「その大丈夫は、どっちの大丈夫?」
「迷惑じゃないって、思ってるんだと思います」

 どうしてこんなあいまいな言い方しかできないのだろう。自分が傷つかないために、相手を傷つけてるかもしれない言葉しか言えないのだと、奈江は落ち込んでしまいそうになる。

 それでも、秋也がうれしそうに笑むから、彼の前ではどんな言葉もポジティブに変わるんじゃないかと思えてくる。

「早坂さん、佐羽に住んでるんだっけ? 帰りは佐羽まで送るよ。そのときに次の約束するから、心の準備しててほしいな」

 秋也は奈江をよくわかっている。すぐに返事がほしいから、前もってそう言ってくれるのだ。そこまでして会いたいと思ってくれてる気持ちの正体はなんなのだろう。

 そんなことを考えながら、上品にステーキを平らげていく彼を、どこか別世界にいる人を眺めるような目で、奈江は見つめた。
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