繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



「環生さんもお店の鍵、持ってるんですね」

 秋也が出ていったあと、奈江は環生とともに店を出て、商店街の中にある昔ながらの喫茶店へと移動した。

 店を留守にして大丈夫かと心配だったが、環生は持っていたキーホルダーについている鍵の中から一本を選び取り、店の入り口を施錠すると、奈江を喫茶店に案内したのだった。

「俺がオーナーですから」

 コーヒーカップを口もとに運びながら、環生はすまし顔で答える。

「そうなんですか?」

 驚いてはみるが、吉沢の店なのだから、なんらふしぎな話ではないかとも思う。

「秋也さんは昔からうちでアルバイトしてたので、お店のことはすべてお任せしてるんです」
「じゃあ、環生さんはらんぷやさんにはあんまり来られないんですか?」
「興味ないですね。父が死んで、潰せばよかったんですけど」

 潰せばいいなんて、やけに淡白だ。あんまりどころか、全然ランプに興味がないのだろう。

「猪川さんは吉沢さんに頼まれて、店長をされてるんですよね?」
「母が頼んだみたいですね。それで、修理だけでもやろうかって言ってくれたんです。今は修理だけですが、秋也さんがらんぷやをやりたいなら、それはそれでいいと思ってるんです」

 環生はわずかに表情を和らげて、そう言う。

 秋也はらんぷやをやりたいのだろうか。奈江はそれを聞いたことがない。

「でも、猪川さんはアプリ開発もされてますよね」
「従業員が少ないので、戦力ですよ。秋也さんに抜けられたら大変ですが、まあ、俺がいるので」

 うっすら、環生は笑む。
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