繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 しかし、奈江は反発せずにはいられなかった。惹かれてしまったものは仕方ない。引き返せないから、恋なのだとも思う。

「思わないです。優しい猪川さんしか知らないから」

 秋也を信じている。なぜか、そんな気持ちになる。何も知らないくせに、知ったような気になって。だけど、どうしようもない。自分では制御しきれない感情が、秋也を信じてる、彼は悪魔なんかじゃない、そう叫んでいる。

「へぇ、意外と情熱的なんですね」

 奈江はほおがカッと熱くなるのを感じた。からかわれた。わざと感情を揺さぶられた。それに気づいたから。

 面倒なのは、秋也じゃない。いま、目の前にいる環生という青年だ。

「俺は幸せになってもらいたいんです、秋也さんに」

 まぶたを伏せて、静かにそう言った環生は、たったいま、挑発的な態度を見せた彼とは別人のようだ。

 試されたのは、奈江の方。環生は今日、秋也は悪魔だから気をつけろと奈江に忠告するためではなく、彼に近づく女を監視するためにやってきた。だから、奈江のことを不必要に知りたがる。

 半端な気持ちで秋也に近づくな。環生の冷静な目はそう言っている。

「ジェントルデビル。それが、社名の由来です」
「それで、優しい悪魔……」
「秋也さんが、社名をデビルにしようとしたから、直球すぎるってからかって、ジェントルデビルを縮めて、ジェンデにしたんです」

 つまり、秋也は自分が悪魔であるという自覚があるのか。

「どうして、悪魔だなんて……」
「本当に何も知らないんですね。彼岸橋で一緒に御守りを探したのに」
「それが、何か……?」
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