繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「あ、大丈夫です。疲れてないです。ただ……、人が多いところは得意じゃなくて」
「そっか。じゃあ、お祭りも苦手だよね」
「お祭り?」

 なんで急に祭りの話になるのだろう。

 不思議がる奈江を見て、秋也は首を振る。

「なんでもないよ。それよりさ、環生くんに会って、疲れたのかなって心配してた。何か言われた? 彼、意外とずけずけ物言うところがあるから」

 自分で言い出したのにごまかすと、秋也はふたたび、奈江の顔をのぞき込む。

 まるで、心の中を探るような目をしている。本音を言わないから困ってるのかもしれない。そう思って、奈江は尋ねる。

「社名の由来を聞いていたんです」
「社名って、ジェンデの?」
「優しい悪魔って、意味があるんですね」

 秋也が一瞬、表情を固くした。言ってはいけないことだっただろうか。すぐに後悔する奈江に、彼は気にしてないよとばかりに笑む。

「まだ若かったからね、デビルだなんだって、そんな名前に惹かれたのかもしれない」
「学生のときって、ダークなものに惹かれたりしますよね」

 フォローするように言うが、秋也は珍しく黙り込む。また余計なことを言ってしまったかもしれない。

「あのっ、別に社名をどうこう思ってるわけじゃなくて、環生さんからも世間話程度に由来を聞いただけで……」
「俺、両親がいないんだよね」

 あわてる奈江を遮って、そうつぶやいた彼は、あきらめに似た表情を見せると、たくさんの人が行き交う通路へと目を向ける。その横顔はどこか思い詰めてるようでもある。
< 91 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop