繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 知られたくなかったのだろう、きっと。しかし、話す気になったのは、社名に関係しているからだろうかと、奈江は黙って見守る。

「中1のときに、両親を一度に亡くしてね。ひとりぼっちになった俺は、父方の叔父に引き取られて、大野へ引っ越してきたんだ。叔父夫婦には子どもがいなくてさ、叔母も俺を引き取ることに賛成してくれた」
「いい人なんですね」
「そうだな。それは、ラッキーだったと思うよ。本当の両親のように慕ってくれていい。そう言われたけどね、俺はもう中学生だったし、簡単には甘えられなかったな。だから、叔父さんたちに迷惑はかけられないって、工業高校に進んだよ。手に職をつけて、はやく独立するためにね」
「吉沢らんぷでアルバイトしてたのも、そのため?」
「遥希が吉沢さんに頼んでくれたんだ。それは今でも感謝してる」

 そういう経緯と苦労があったのだと、奈江は話に耳を傾ける。

「高校卒業したら、就職するつもりだったんだけどさ、吉沢さんが大学に行った方がいいって勧めてくれて、夜間大学に進学して、一人暮らしも始めた」
「そのときに出会った仲間とアプリの開発をされたんですね」
「そう。どこで聞きつけたのか、環生はアプリ作ってるならやってみたいって、俺の部屋に入り浸っててさ。まあ、その延長で、今も一緒に暮らしてるようなものなんだけどね」

 秋也はくすりと笑うが、すぐに深刻な目をする。

「そんな頃だったな、あいつが死んだのは」
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