繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「じゃあ、デートの誘いになかなか返事くれないのも、性格のせい?」

 秋也の求めている答えが見えない。何を言えば、彼が満足するのかわからないから、奈江は戸惑う。

 秋也はこちらをじっと見つめてくる。言えない何かを訴えている。それが何かわからないし、どう受け止めたらいいかもわからない。

 目をそらすと、彼はパッと手を離し、回り込んで目を合わせてくる。

「それとも、好きな男がいるから?」

 奈江は驚いて、まばたきをした。煮え切らない態度が、彼の目にはそんなふうに映っていたのだろうか。

「遥希が、好きだった?」

 それは小さな声だった。喧騒にかき消されてしまいそうなほどの。しかし、奈江の心に刻まれた言葉は、けっしてかき消されたりはしない。

「環生くんを見る目……。なんか、そうかなって感じがしたよ」

 頼りなげに彼はつぶやく。奈江の心の中をのぞこうとした自分を情けなく思っているみたいだった。

 奈江は心の中で、違うと否定する。淡い恋心は昔のことだ。今、心にいるのは秋也だけだ。それを告げなきゃいけない。

 いつもは優柔不断なのに、どうしてか、言わなきゃいけないという焦燥感にかられて、きっぱりと言う。

「勘違いです」
「違うの?」
「遥希さんが好きだったら、猪川さんとこうして一緒になんていません」

 秋也がどう受け取ったかはわからない。あいまいな笑みを浮かべた彼は、おもむろにフロアガイドを開く。

「指輪、見に行かないか?」
「指輪ですか?」
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