繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 また、唐突に言うのだから、拍子抜けする。奈江の心が追いつかない。

「早坂さんがどんなデザインを好むのか知りたいんだ」
「私ですか? 猪川さんの指輪を見るんじゃなくて?」

 考えてみれば、彼がアクセサリーをつけているところは見たことがない。

「違うよ」

 秋也はおかしそうに目を細めると、優しい眼差しをする。

「いつか、プレゼントしたいって思ってるから」
「プレゼントって、そんな」

 秋也はすぐにプレゼントしたがる。そういうのは、特別な人にしてあげてほしいと思う。少なくとも自分は、特別な人からしか受け取れない。

「ほら、すぐに遠慮する。だからさ、無理強いはしないよ。自然と受け取ってもらえるような関係になれたら、プレゼントするから」

 つまり、それって……。

 奈江はほんの少し、ほおが熱くなるのを感じた。そんなはずない。勘違い。いつもの悪いくせだ。

「い、行きましょうか」

 けっして、人を先導するのが得意ではない奈江だが、このままではよくない空気になってしまいそうで立ち上がる。

 闇雲に歩き出す奈江を、秋也が軽やかな足取りで追いかけてくる。さっきまでの重苦しさがうそのようだ。

「早坂さん、あともう一つ、お願いがあるんだ」
「もう一つ?」

 振り返ると、彼はショッピングセンターの柱を指差していた。そこには、『みやはら縁結び祭り』と書かれた祭りの案内ポスターが貼ってある。

「毎年、宮原神社で秋祭りがあるんだ。一緒に行かないか?」
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