繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「真紀子はせっかちで、思い通りにならないとイライラするわよね。奈江ちゃんに怒ってるわけじゃないよ」

 康代はそう言うが、どうにも奈江は承服できない。

「私が思うように育たないから、イライラしてるんだと思う」

 康代は心配そうに眉を寄せて、手を重ねてくる。

「自分ではそうは思ってないだろうけど、真紀子は昔から完璧主義で、がんこ。頑張り屋で他人に厳しいところもあった。それでも、奈江ちゃんはかわいいって育ててたよ」

 康代のなぐさめが余計に、奈江を意固地にする。

「そういうの、感じたことない」

 困らせたいわけじゃないのに、康代は困ったような笑みを見せる。

「真紀子は愛情表現が苦手なのね。奈江ちゃんがそう思うなら、おばさんは無理に仲良くさせたいとは思わないよ」
「親不孝者だよね」
「いいじゃない、それでも。真紀子が悩むなら、それはあの子の問題。家族だからって無理に好きにならなきゃいけないことはないよ」
「就職してから、ずっと距離を置いてる。これからもそれでいいのかな」
「大丈夫よ、奈江ちゃん」

 優しく手の甲をなでられて、奈江は息をつく。康代が母親だったら違う人生があったかもしれない。だけど、そうだったら、こんなふうに話せる関係ではなかったかもしれない。人との巡り合いに仮定の話をしていたら、キリがない。

「奈江ちゃん、宮原神社のお祭り、行ってらっしゃいよ」

 康代は優しくそう言う。

「やっぱり、行った方がいいようなお祭り?」

 秋也がわざわざ行こうと誘うぐらいなのだから、奈江に見せたいものがあるのかもしれない。

 彼はいつも、目的があって誘ってくれてるような気がしている。毎日平凡で、何もない人生を送る奈江を楽しませようとするみたいに。
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