Runaway Love

79

 翌朝、ほとんど寝られなかった頭をどうにか起こし、朝早くの新幹線に乗って、早川と二人、帰路についた。
 昨日の今日で、若干気まずかったが、早川が何でもない風を装ってくれたので、それに甘える事にする。
 新幹線では、やはり隣の席になっていて、お互い苦笑いだ。
 そして、何となく他愛ない話を続け、途中、うつらうつらしながらも東京駅に着き、乗り換え。
 ようやく、見慣れた――懐かしい景色が視界に入って、帰って来たのだと実感した。
 駅に着き、改札を出ると、早川があたしを見やって言う。
「茉奈、タクシー相乗りするか?」
「そうね。一応、大家さんに連絡してあるから、部屋の鍵受け取らないとだし……」
 本当は、すぐにでも実家に行き、様子を確認したかったが、仕方ない。
 あんまり遅いと、大家さんに迷惑がかかってしまう。
 二人で一階まで下りて、出入り口の自動ドアをくぐると、その懐かしい空気に一瞬足が止まった。
「……何か、すげぇ久し振りだな」
「……そうね」
 お互いに苦笑い。
 そして、タクシー乗り場へと足を向けようとしたその時。

「茉奈さん!」

 声の方を振り向き、あたしは、一瞬固まってしまった。

「――の、野口くん」

 目の前の送迎用の駐車場から、野口くんが、行き交う女性の視線を集めながら、あたしの元に駆け寄って来た。
「……ど、どうして……」
 あっけに取られて、彼を見上げる。
「始発で来るなら、この時間かと思ったんで、迎えに来ました」
 ニッコリと返され、あたしは気まずくなってしまった。
 すると、肩が軽く叩かれる。
「早川?」
 あたしが振り返り見上げると、早川は苦笑いで見下ろしている。
「じゃあ、俺は先帰るから」
「え、あ、うん……」
「また明日、会社でな」
「――ええ」
 そう言って、あっさりとタクシーに乗り込む早川を見送ると、あたしは野口くんを見上げた。
「……野口くん、この前はありがとう」
「え?」
「……マニュアル。……忙しいのに……」
 すると、野口くんは、クスリ、と、口元を上げた。
 久し振りに見るその表情に、胸は痛む。
「――気にしないでください、って、言いましたよね?」
「そ、そうだけど……」
 それでも、負担をかけてしまった罪悪感はあるのだ。
 だが、彼には、本当に些細なことのようで、話題はあっさりと変わる。
「――それより、茉奈さん、直接アパート帰ります?」
「え、あ、ええ」
「じゃあ、送りますね」
 野口くんは、そう言うと、あたしのスーツケースを持つ。
「い、いいわよ、重いでしょ」
「重いなら、なおさら持ちますよ」
「……野口くん、またクセ出てるわね……」
 久し振りの無意識なそれに、あたしは、苦笑いだ。
「え、あ。……でも、まあ、あなたですし」
 その返しに、ドキリ、と、胸は鳴る。
 あたしは半歩前を歩く彼を見上げ、懐かしさと罪悪感と――胸の痛みに、涙が浮かびそうになってしまう。
「……茉奈さん?」
 野口くんは、すぐに気づき、あたしを振り返る。
 あたしは、苦笑いで返した。
「……ううん……何だか、久し振りだな、って……」
「……そうですね」
 久し振りに彼の車に乗ると、その香りに、懐かしさは増す。
 そして、離れている時の話を、お互いにポツポツとしながら、すぐにアパートに到着した。 
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