夏に咲く君に、きっと恋する【完】
 それから私はいつもと変わらない落ち着いた日々を過ごしていたが、ある日学校で私の噂話と思われる声が耳に入ってきた。

 ーー〈相沢さんってさよく蒼先生と一緒にいるけど、どういう存在なんだろうね。〉

 おそらくこの声は、いつも周りから可愛いと言われている七瀬さんの声だ。同じ一つ結びの少女、なのに私と違うその大きい瞳は、透き通った雰囲気は、すぐに誰もが彼女の虜になってしまう。私とは無縁だと思っていたのに。

 相沢、というのは私の苗字だが、どうやら放課後二人きりで話しているところを目撃されていたらしい。何気なしに話の続きを聞く。

 ーー〈でさ、多分相沢さんは蒼先生の事が好きなんだよ。相沢さんって大した友達もいないし冴えないただの生徒の一人なのに、しかも大人しそうに見えてさ、先生のことはたぶらかすんだね、本当何考えてるかわかんない〜〉

 周りから〈確かに〜私も思ってた〉なんて声も響く。

 思わず、え、と声が漏れる。そして、脳に反響する。そんなつもりも当然無く、それにいつも決まって話しかけてくるのは向こうだった。

 だが彼の事が気になっていた手前、その会話の連鎖は私の頭に凶器として降り注がれた。普段なら何を言われても無視するであろう私が、その時ばかりは、彼の本当の良さを知らないくせに、と怒りがこみ上げてきた。
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