夏に咲く君に、きっと恋する【完】
 「………てる」

 彼はまた口を開き何か言ったが、聞き取れず、今なんて言いましたか、と返す。

 「……俺の母に似てるんだ。母の紡ぐ言葉は、いつだって素直になれない俺を真っ直ぐにしてくれた。視野を広げてくれた。言葉で諭してくれる時もあれば、包み込んでくれる時もあった。俺は、とても、とても、心の底から尊敬していたんだ。そんな母が大好きだった」

 でも、もうこの世にはいない、愛おしくてたまらない柔らかい声を、その言葉を聞ける日は来ないのだと、彼は語った。
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