愛を知らない悪女は悪魔様に拾われる。
第一章 別れと悲しみと怒りと
 何でこんなことになってしまったのだろうか。どこで間違えたのか、何がいけなかったのか、人生を振り返る時間すら私にはないのだ。だいたい、私の生きた時間の中に幸福や楽しかったものなんてない。でもこんな世界でも私は一生懸命に生きた。そんな私の最期の行き場所は暗く冷たく、到底普通の人が来たくない来ない場所。そう、牢獄だ。そんなことを考えていると突然牢獄のドアが開き、外の月光が眩しく隙間から細く伸びた。そこから入ってきて、足音が私の前で止んだ。
「あら、可哀そうに血まみれになってお姉様。ご機嫌はいかが? 」
そういって、柵ごしから首につながれている鎖を引っ張った。私が血まみれになったのはあなたのせいでしょ。あなたが私にやってもいない罪をいって、死刑者にするから―。

 それは、半年ほど前。カトリーヌがわたしから婚約者を奪い取ったあの日から一気にどん底に引きずり落とされた。
「エラ・ヴィリアン。お前は妖精ではないじゃないか! 」
婚約者の怒りを表したような声が会場中に響いた。私はそれを聞いて驚いたのをよく覚えている。
 この世界には魔法がある。そして私の実の母ダイアナ・ヴィリアンは、妖精の血が流れていた。そこから生まれた私は母の妖精の血をほぼ百パーセント受け継いているはずだ。それに私は魔法を何度も使える普通の人ではないはず。あれほど『最強の悪女』って言われてきたのに何を言っているのだろう。
 そうしたら私の婚約所の後ろからこの世で一番嫌いな彼女、カトリーヌ・ヴィリアンが現れた。
「カトリーヌが妖精だ! 」
それは私を不幸にした言葉。聞きたくない言葉。それほど非現実的な事だった。
 周りの人々はその現場を遠目から見て、ヒソヒソと聞いていた。
 カトリーヌは死んだ私の母の代わりに私の父と再婚した、アニー・ドランシェの娘だ。当時、年は18歳。私から見れば、2個下な彼女は妹の存在に値する。だから私の母とカトリーヌとは血もつながっていないし、お互い顔も知らないだろう。なのにカトリーヌが妖精? 魔法が使えないのも私は知っている。そう思っていたら彼女は私の婚約者に抱き着いて、閉じていた口を開けた。
「お姉様。ずっと言えなかったけど、やっぱり噓をつくのは良くないわ。これはお姉様のために言っているのよ? 」
彼女はその場から、魔法を使って見せた。それを見ると周りにいた人々は、
「彼女が本物の妖精だ。あいつは偽物だ! 騙されるな! 」
と言った。おかしい。あの魔法はまるで誰かが作った魔法で、彼女の手元から出ていない。
「ああ、その通りだ。エラ・ヴィリアン、お前は自分を妖精だと詐称した。この件は死罪で罪を認めるんだな。」
そしたら警吏が私の腕を掴んで、外に連れ出そうとする。その腕を振り払おうとしても、私の力では到底無理だった。そして会場の扉が閉まろうとしたとき、不意に中で幸せそうにするカトリーヌと目が合った。そして彼女は笑った。まるで小さい虫をいじめて楽しそうな、そんな笑みだった―。

 それで今私は以前まで無関係だった、牢獄に押し込めれているのだ。抜け出したくとも抜け出せない、闇にようなこんな空間。でも私にとってはもう慣れてしまったみたい。もう絶望をするのにも疲れてしまった。死ぬのも生きるのも怖くない。
 牢獄に来た、カトリーヌが再び私に話しかけた。
「こんな身体じゃ、もう死ぬわね。」
バラの香水の香りが漂う白くて奇麗なカトリーヌの白肌。それに比べて私は、さんざん警備に叩かれ、殴られ、蹴られたこの身体にはあざや傷が無数にある。
 正直彼女の言葉にむかついてきた。それで私はその思いを抑えることができなくて、つい水魔法を使った。彼女に向かって勢いよく水が流れ、カトリーヌは頭から水しぶきを浴びた。
 しかしそれは何の反撃にもならなかった。体が弱った私は、魔法で大量の水を出すこともできず、牢獄の柵が水の流れを邪魔してしまった。
「これで反撃したつもり? 笑わせないでよ。でもまあ、あなたは正真正銘の妖精だったのよ。まあ可哀そうに。いきなり実の父が再婚して、やってきた少女だけが家族の中で可愛がられて、あなたは必要とされなくなった。その上、いつも『最強の悪女』と虐げられてきて、自分が妖精なのにその少女のせいであなたの幸せが奪われた。不幸な人生だったわね。」
フフと満足げに笑う彼女。でも、その通りだ。一度目の人生はカトリーヌが幸せを奪っていった。そして今回も。私は幸せを願っても叶わない。もしかしたら、最初から私は幸福を願う権利もないのかもしれない。
「明日、処刑場で楽しみに待ってるわ。不幸なお姉様。」
そして私は明日で二度目の人生に幕を閉じる。本当の事も言えず、無念があるこの世から離れるのだ。

 次の日、それは私の二度目の人生の最後の日。つまり命日。処刑場には村の人々が100人ぐらい集まって、何が起こったのかざわついていた。そしてそんな人々に向けて、私がしてもない罪を大声で叫んだ。ついこの前まで婚約者だった彼が。
 あの事件から半年たち一度も顔を合わせていなかった婚約者は、その事件を知らせた後カトリーヌと会話しているのが目に入った。そんな彼は、以前私と婚約を結んだ時より幸せそうな顔をしていた。本来、カトリーヌのいる立場は私がいた場所。そのことを改めて知らされた気持ちになって、惨めで、悔しくて、悲しくて、苦しくて心臓が壊れそう。でももうすぐこの心臓も止まって動かなくなるのだろう。だったら、今のうちに壊れてしまった方が痛みを感じずに終わるのかもしれない。
 処刑時間の鐘が鳴った。警吏が弱った私の身体を抵抗ができるはずないのに押さえつけた。そして処刑台に首をはめさせられた。身動きが取れない。まさに絵に描いたような罪人の最期。首を動かしきれる範囲の中にまたカトリーヌが見えた。今度は先ほどと違ってこちらを見ている。カトリーヌの顔、それはあの会場で見たような軽蔑した笑顔。そして何を言っているのか聞こえないが私に話しかけている。その口元は『さよなら、お姉様。』と動いていた。その後、思っていもいないのに彼女は悲しい雰囲気を出し涙を流していた。それを見た婚約者はカトリーヌを抱き、彼は私を強く睨め付けた。
 私の真横に体つきが強そうな男が現れた。手には先が尖った斧を持っている。彼は私の首にめがけて振り落とした。目の前が真っ暗になった。そして強い痛みを一瞬だけ感じて、消える。何の感覚もなくなる。消えていく。
 これで終わりだ、理不尽なこの世界から逃れることができる。もはや死も救いに感じるものだ。なんて嬉しいんだろう。

―でも本当の地獄は始まりはここからだった。
 そして、私は再び19歳の頃の自分に転生した。このループこそが、私にとって一番の地獄なのだ……。
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