本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 チラリと左手の薬指に目をやるが、そこにはなにもない。結婚したという話はまだ耳に届いていない。もしそうだとしたら、実家の母や姉が大騒ぎで連絡を寄こしてくるだろう。

 でもきっと恋人くらいいるよね……。

 あの頃もそうだったが、さらに素敵になった彼を周りの女性がほうっておくはずない。三十三という年齢を考えたら、結婚間近の恋人が居てもおかしくないと思う。

 頭であれこれ考えていないで本人に聞いてみればいい。そう思うのにどうしても言葉にできない。開きかけた口をきゅっと引き結んだとき、彼が突然こちらを向いた。バチっと目が合う。

「な、なに、圭吾お兄ちゃん」
「いや、なんだか俺たちおそろいみたいだよな」
「あ……」

 自分の服に目をやる。なにを着るか散々悩んだ末、ネイビーのマーメイドスカートに、プルオーバータイプの白ブラウスを合わせた。シックで大人っぽい雰囲気の中で、バルーン袖と背中のリボンがアクセントになっている。

 色使いが被ったことにはすぐに気づいていた。
 恋人同士に間違えられたらどうする? 冗談めかしてそう言ってみようかな。

 口を開きかけたところで、お兄ちゃんが相好を崩す。

「仲のよい兄妹だと思われてるかもな。こんな可愛い妹と一緒に旅行できるなんてラッキーだよ」

 ぎゅっと胸が苦しくなった。
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