本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~
 幻滅した。彼だけでなく、自分にも。

 勝手に彼に理想を重ねて、勝手に裏切られたような気持ちになって。
 しかも最悪なことに、事実を知る前にその女性に自分勝手な正義感をぶつけていた。

『軽い気持ちならお引き取りください』――なんて、なにも知らないくせによく言えたものだ。本当最悪最低。

 すべてを知った後、激しい羞恥と自己嫌悪に襲われて、ものの例えではなく実際にのたうち回った。
 さすがにこんなことお兄ちゃんには言えない。

 左手を顔の前に持ち上げる。

「きっとここには赤い糸なんてもともとなかったんだわ」
「香ちゃん……」

 困ったような声にハッとした。聞かれたこととはいえ、こんな話面白いわけがない。

「あーあ、せっかく理想の人に巡り合えたと思ったのになー」 

 あえておどけた口調で言って目の前にある缶を開ける。ライチ酎ハイは歯が溶けそうなくらい甘いのに、どこかほろ苦い。

「そんなことより圭吾お兄ちゃんはどうなの? 彼女のひとりやふたりいるんでしょう?」
「ひとりやふたりって……俺をなんだと思っているんだ」

 じろりと睨まれる。
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