君のブレスが切れるまで外伝―on a rainyday remember love―
 2017年 4月


 桜が満開になる頃、私はまだ自分の香りとは程遠い、黒いセーラー服を身に纏った。
 カーテンを開ける。それなりにいい天気だ。天気は崩れそうにないが、傘を……傘を持っていこう。
 玄関に立てかけられていた少し錆の浮いている赤い傘。ずっとあの屋敷に残されていたものだ。
 今となってはこれが母親の物か、誰のものかすら定かではない。思い出も何も残っていない忘れられた傘なら、誰が使っても同じ。黄色傘の代わりには到底ならないが、雨粒を防ぐだけなら役に立つ。
 スマートフォンを取り出し画面を見ると、時間が差し迫っていた。駅へ向かおう。学校へ、あの子と出会うために。


「…………」


 ガタンゴトン、ガタンゴトン。
 乗っている電車はまるで舞台装置のよう。立っているスーツも、制服も、誰もが揺れて世界が映る。
 人はいるのに、私は一人。誰もがいて、誰もいない。


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