契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 額を掠める柔らかな感触。肌に降りかかる呼気。
 刹那の接触はさながら幻のよう。ハッと瞼を押し上げた時にはもう、彼の唇は離れていた。

 ――今、キスされた……?

 初めてのことに、確信は持てない。それでも、額に残る微かな感覚が、焦げ付きそうな熱を帯びていた。
 問い返す眼差しを向ける希実に、東雲は意味深に微笑むだけ。
 愉悦を孕む男の唇は、思いの外赤い色をしていた。

「初回なので、今日はこれくらいで許してあげます。でもまた同じ過ちを犯したら、本気でキスしますよ」
「キ……っ」
「そうすれば男に対する警戒心を養えますし、同時に僕らの距離も縮むかもしれません。初々しい希実さんも素敵ですが、可能ならあと少し打ち解けてくださった方が結婚の真実味が増しますからね」

 希実の失言に対する罰がキスだなんておかしい。そう言い返したいのに、まともな言葉は一つも出てこなかった。
 それどころか意味を成す単語も思いつかない。
 混乱した頭の中はぐちゃぐちゃ。
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