契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 恨み言も言いたくなるというもの。
 だがきっと、花蓮は希実に『資料を持ってこい』と頼んだことすらろくに覚えていないと思った。
 彼女はお世辞にも仕事熱心とは言えない。
 さぼっている時間の方が長いくらいだ。花蓮が日々精を出すのは、社内でのお喋りと上司や男性社員とのコミュニケーションばかり。
 皺寄せは、希実のような『文句を言えない』者へ集中していた。

「……正気ですか? 全て自分の思い通りになると考えているなら、あまりにも世間知らずだ。それとも想像力が乏しい?」

 焦る様子もなく、東雲が冷淡に言葉を紡ぐ。
 直球の誹りは理解できたようで、花蓮が顔を強張らせたのが希実からも見えた。

 ――火に油を注いでどうするんですかっ?

 胸中で猛烈に突っ込んだものの、現実の希実は絶句していた。
 これ以上煽れば、花蓮がもっとやらかしかねない。
 最悪の結末がいくつも頭の中を過り、ますます逃げ場のない状況を呪わずにいられなかった。

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