契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 先刻までは太々しかった花蓮が、一転怯えた声を上げる。
 カツカツとヒールを鳴らし、大慌てで倉庫から逃げ出したのだ。
 足音が遠ざかり、けたたましい勢いで扉が閉められる。残されたのは静寂。
 静まり返った倉庫の中で、希実は震える息を吐き出した。

 ――た、助かっ……

「――で、君は一部始終盗み見していたのかな?」
「ひぃっ」

 もう倉庫内にいるのは自分だけだと思っていた。てっきり東雲も出ていったのだと。
 けれど違ったらしい。
 長身を屈めた彼が棚の裏側を覗き込んできて、希実とバッチリ眼が合ったのだから。

「あ、ぁ、の……」
「君は、佐藤さん? 大人しく真面目な社員だと思っていましたが、他人の情事を覗き見する趣味があるとは知りませんでした」
「じょ、情事……覗き見っ?」

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