契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 希実は東雲が自分の名前を認識していることにも驚いたが、それよりも続く言葉に愕然とした。
 そんな言われ方をされたら、まるで希実がウッキウキで出歯亀をしていたようではないか。
 事実は全く違うのに。自分はただただ巻き込まれた被害者だと主張したくて、大慌てで首を横に振り、立ち上がった。

「とんでもない誤解です、安斎さん。私はたまたま倉庫で探し物をしていただけで……っ」
「偶然面白い見世物が始まったから、静かに見学していた?」
「こ、声をかけるタイミングがなかったんです!」

 激高した雰囲気はないものの、彼の物言いには棘がある。
 それはそうだろう。
 どんな経緯があったにしろ、他人に見られて嬉しくはない場面を希実に目撃されたのだ。
 しかも東雲には社会的な立場もある。
 こちらにそんなつもりは毛頭ないが、『これをネタにして恩を売るつもり』または『甘い汁を吸うための取引条件』にされかねないと構えても、仕方がない。
 単純に今あったことを言い触らされても、ダメージを負いかねないのだ。

 ――不実だとか社内で逢引きしていたとか広まれば、評判が悪くなる……

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