契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 人の不幸は蜜の味。
 まして完全無欠を誇る男の醜聞となれば、さぞや面白おかしく娯楽の種にされる。人間とはそういうものだ。
 対岸の火事は面白い。
 自らに火の粉が降りかからなければ、傍観者の立場で他者を消費できる。
 希実は決してそんな人種ではなく口が堅い方なのだが、そう主張したところで簡単に信じてもらえるとは思えなかった。

 ――私なんて、数多いる営業事務の一人……その気になれば、安斎さんの一存でクビにされてしまうのでは……?

 ゾッと背筋が粟立った。
 もし無職になれば、とても都会で一人暮らしなんて続けられない。
 苦労して入ったこの会社は、かなり給料がいいのだ。転職したとしても、同程度の条件で今と同じ給金は望めないだろう。
 そうなれば当然、両親は地元へ帰って来いと言うに決まっている。
 無駄遣いはせずコツコツ貯金はしていたので数か月はどうにかなるが、すぐに家賃の支払いもままならなくなるのが目に見えていた。

 ――きっと地元へ戻るしかなくなる……それは、絶対に嫌。

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