契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 どちらかと言えば、何事も穏便に波風立てず処理する人だと認識していた。
 だからこそ花蓮が交際を匂わせても曖昧に濁し、いざ彼女の度が過ぎると遠ざけるために好きでもない希実と契約結婚を選ぶ。
 それが最も効果があり揉めない手段だと、冷徹に計算できる人だから。
 感情よりも理性や損得で動く――ある意味ドライな人間だと思っていたのだが――

 ――こんな風に人前で振舞ったら、騒ぎ立てられてしまうかもしれないのに……

 東雲の都合ではなく、希実の事情を優先してくれたのか。
 そう考えるのは、願望に過ぎないのかもしれない。けれどとてもしっくりと胸に馴染んだ。
 まだ同居して日が短い、他人同然の夫。
 それでも、彼がどういう人なのか少しは分かっている。
 優しくて、人を気遣うことのできる、芯のある人だ。時折意地悪な時があるものの、希実のことを考えて大事にしてくれる。
 そういう人がまっすぐこちらへ伸ばしてくれた手を、握り返さない理由はなかった。
 小走りで駆け寄った希実の手が取られ、東雲が歩き出す。
 邪魔をする猛者はいなかった。どよめきを置き去りにして、二人並んで歩く。
 やがて絡みついていた有象無象の視線から逃れ、足並みがゆっくりとしたものに変わった。

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