契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「……し、東雲さん、どうして社食にいらしたんですか?」
「さっき言った通りだよ。希実と話をしたくて迎えに来たんだ」

 おそらくそれは、優しい嘘だと思った。
 話なら、帰ってからでもできるし、SNSのメッセージでもいい。
 忙しい彼が多忙の中を縫って、わざわざ出向くことはあるまい。だとしたら。

「助けに来てくれたんですか……?」

 希実が食堂でトラブルに巻き込まれたと誰かから聞きつけて。そう考える方がしっくりきた。

「勇んで駆け付けたけれど、君は自力で言い返していたね。とても勇ましくて格好良かった」
「見ていたんですかっ?」

 振り上げた拳をどう下ろそうか迷っている情けない姿を目撃されたのだと思うと、恥ずかしさが込み上げた。
 つくづく自分は揉め事に向いていない。
 喧嘩さえままならない冴えないところは、全部忘れてほしかった。

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