契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 にも拘らず希実と眼が合うと、途端に虚勢を張り始めた。

「簡単に言い包められちゃって。馬鹿みたい」
「……飯尾さん、貴女が私を嫌って悪く言うのはまだ我慢できます。でも、東雲さんを貶める真似はやめてください」

 希実だけが下に見られて嘲られるのは耐えられた。
 けれど花蓮の言葉が偽りで、東雲に関する件がでっち上げなら、それは彼の不利益でしかない。
 彼女は『安斎東雲は妻がありながら、かつての婚約者と浮気をしている』と吹聴しているようなものだ。
 これは到底見過ごせることではなかった。

「誹謗中傷も甚だしいです。謝ってください」
「はっ? 私が貴女に? 冗談じゃないわよ」

 この期に及んで、花蓮はまだ希実を見下している。馬鹿にしていい相手と見做し、その思い込みから抜け出せていない。
 彼女にとっての価値基準に倣えば、希実は下の下だから。
 地味で暗く、ダサくて美人ではない。流行に疎くて人付き合いが苦手。男友達は皆無。勉強ができてもノリが悪く、融通は利かない――

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