契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ――だけどそんなもの……学生時代なら通用しても、大人になればもっと別に大事なものが生まれるのに……

 いっそ哀れみを抱く自分は、彼女の言う通りチョロいのかもしれない。
 嫌悪より同情が勝って、花蓮を憎みきれないのだ。

「飯尾さん……」

 しかし希実に微妙な表情を向けられることを、彼女は屈辱と捉えたらしい。
 顔を真っ赤に染め、再び両目を吊り上げた。

「あんた程度が私に意見しないで! 貴女に謝るなんて死んでもごめんだわ!」
「……っ、君、いい加減に――」
「私にじゃありません。東雲さんにです」

 聞き捨てならない侮辱で東雲のこめかみに青筋が浮いたが、希実が毅然と告げれば、彼は驚いたようにこちらを振り返った。
 気づけば東雲は希実を花蓮から守るように背中に庇ってくれている。
 だがいつまでも人の背後に隠れて怯えている自分ではいたくない。
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