契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 口元は、穏やかでありながら愉悦を帯びた笑みを形作っていた。

「今日は上だけで許してあげる」

 それくらいなら、と受け入れてしまった希実は、これが巧妙な交渉術の一環だとは知る由もない。
 人は一度相手の要求を断ると、その次の願いを拒否しにくくなるのだ。
 まんまと東雲の策略に嵌った希実は、彼のジャケットとワイシャツを脱がせにかかる。
 よもや真剣にボタンと格闘している自分を、東雲が不敵な笑みで見下ろしているとも知らず。

「……で、できました」
「よくできました」

 額に口づけされて褒められると、悪い気はしない。
 希実が達成感で笑顔になれば、彼も笑み返してくれた。

「……希実は純真で頑張り屋だ」
「ごく普通ですよ」
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