契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 親元を離れ都会で一人生きてゆくのも、故郷に戻り共同体に馴染んで生きてゆくのも。
 背負うには荷が重過ぎた。

「もし親御さんがガッカリしたとしても、それはあちら側の問題であって佐藤さん本人に責任はないと思いますよ」
「……ぇ」
「と僕が申しあげても、きっと貴女は自分に非があると感じるのかもしれませんね。人一倍責任感が強くて、他者の期待に応えようと頑張ってしまう性格だから」

 東雲とまともに話したのは、今日の昼間とこの店に到着してからの短い時間だ。
 それなのに彼の物言いには『希実のことなら分かっている』響きがあった。
 本来であれば、一方的に理解者面をされても不愉快になるのみ。けれど東雲の双眸が穏やかに希実を見つめてくると、何故かむず痒さと安堵が湧き上がった。
 彼からは揺るがない芯めいたものが感じられるからか。
 手の届かない雲の上の人が、己の言葉に耳を傾けてくれる感激があるせいかもしれない。
 希実は思わず東雲を正面から見つめ返した。
 怯え気味の眼差しを、彼はふんわり受け止めてくれる。
 絡んだ視線は、とても安らぐものだった。

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