契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ぎゅっと眼を閉じ、どうにか邪念を祓おうと試みる。だが暴れる鼓動の音は大きくなる一方だった。

 ――そもそもシートベルトなら自分でするのに……緊張で変になっちゃう……!

 心ここにあらずで生返事をしていたのが悔やまれる。しかし全ては後の祭りだ。
 東雲が離れていくまで微動だにできなかった希実は、彼が身を起こし運転席でシートベルトを締めた後、ようやく全身の力を抜くことができた。

 ――ぁ……

 残り香が、鼻の奥を擽る。
 それがむず痒く、名残惜しい。
 上手く表現できないざわめきが、希実の体内で燻っていた。

「それじゃ、改めて出発しましょう」

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