契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 娘が『会わせたい人がいる』と連絡した日から毎日のように、『早く連れてきなさい!』と催促が入るくらいなのだ。
 こちらが『行きます』と告げれば、準備万端で待っているに違いなかった。

「え……ぁ、週末は二人とも家にいると思います……」

 こういう時、咄嗟に嘘を吐いたり適当なことを言ったりできないのが希実である。
 早くも白旗を揚げた希実へ、東雲が一瞬だけ美麗な流し目を寄越した。

「では決まりですね。ご両親へ都合のつく時間を聞いてもらえますか?」

 手際よく追い詰められて、希実は無意識にシートベルトを掴んだ。
 ガンガン外堀が埋められている。
 最善の道を選んだはずなのに、何故か窮地に追いやられている気分が拭えない。
 これまでの希実の人生は、徒歩の速度だった。それが地下倉庫での一件から強制的にバイクに乗せられているように、推進力が突然増している。
 しかし今はもう、音速を越えようとしていた。

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