前世恋人だった副社長が、甘すぎる


「悪いね、菊川さん。これは手切れ金だ」


社長はそう言って私に札束を突き出した。

見たこともない厚さの札束、おそらく数百万円はあるだろう。

私は、

「いえ。いただくことは出来ません」

それを突き返した。

そして深々と頭を下げてエレベーターへと戻る。

心の中が空っぽになった、涙さえ出ない空虚な気持ちだ。


「穂花!」


エレベーターに乗る直前、怜士さんの必死の叫び声が聞こえた。

だけど、怜士さんを振り返るのはやめた。

だって、怜士さんを見ると戻ってしまいそうになるから。このまま駆け落ちしようと言ってしまいそうになるから。

今世初めての恋だったけど、辛い辛い恋だった。



< 168 / 258 >

この作品をシェア

pagetop