前世恋人だった副社長が、甘すぎる
川原さんは川原電機の御曹司で、怜士さんと出席したあの会食で一緒に協奏曲を弾いた男性だ。
あの時の光景が頭の中に浮かび上がる。
だけど、思い出すのは怜士さんのことばかりだ。
怜士さんと離れ離れになった今、正直川原さんと関わっている心の余裕はない。
それなのに、川原さんは神妙な面持ちで言う。
「黒崎社長から聞いたけど、怜士と別れたんだって?」
黒崎社長と聞いてどきりとした。
あの時の社長の笑っていない瞳がすごく怖かった。何としても私と怜士さんを引き裂こうとする、強い意志を感じた。
それを思い出すと、怜士さんを信じて待つこと自体が無謀だと思われてくる。
現に、川原さんの言うように、私と怜士さんは別れたことになっているのだ。
「はい……」
肯定するのが悔しいが、否定するのも違う気がする。
怜士さんを思い出してまた涙が出てきそうになるのを、ぐっと堪えた。